バスが橋を渡り始めた。

窓の外に、水平線が広がっている。遠くに、岩山が見えた。建物と岩が区別できない。山そのものが、建物になっている。


岩山の麓に着いた。

坂道を上る。石畳の路地に観光客が詰まっている。土産物屋が並ぶ。それでも、石の壁と狭い路地のスケールが、中世の巡礼地の気配を残している。

上るほど、階段が急になる。


修道院に入った。

岩の頂上に、石の塔が立っている。ここまで来ると、下の街の喧騒が遠くなる。風がある。海が見える。

内部は暗く、回廊と礼拝堂と厨房が、岩の斜面に沿って重なり合っている。「どこに立っているのか」が分からなくなる複雑さだった。


なぜ、この海の中の岩山に修道院が建ったのか。

708年、司教オベールが大天使ミカエルの啓示を受けてここに礼拝堂を建てた——という伝説がある。孤立した岩山であること、海に囲まれることは、聖域を世俗から隔てるための条件だった。

巡礼者は潮が引いた隙に、砂の上を歩いてここに渡った。潮の満ち引きが、聖地へのアクセスを支配していた。


夕方、岸に戻った。

振り返ると、モン・サン・ミシェルが夕光の中に立っていた。

海と岩と建物の境が、また分からなくなっていた。地形がそのまま建築になるとはどういうことか——ここが、その答えの一つだと思う。