福岡に降りた。

曇り空。明治通り沿いの空気は湿っていて、少しだけ甘い。

交差点の向こうに、見覚えのない建物が立っている。

One Fukuoka Building。


以前この角に何があったか、正確には思い出せない。

ただ「こうじゃなかった」という感覚だけがある。街の記憶というのは不思議なもので、建物そのものより、光の入り方や歩道の幅で覚えていたりする。

その光の角度が、変わっていた。

別アングルから見るOne Fukuoka Building

ダークグレーの縦ルーバーが整然と並ぶ。

角地の低層部はガラスで大きく開かれ、壁面緑化の一帯がぽつりと色を添えている。高速バスが横を通り過ぎていく。福岡、長崎、九州号。この街の交通の結節点であることを、バスの行き先表示が教えてくれる。

都会的、という言葉がまず浮かぶ。

でも少し違う。東京的、でもない。


天神は今、大きく変わろうとしている。

「天神ビッグバン」と呼ばれる都市再開発。航空法の高さ制限緩和をきっかけに、天神交差点を中心とした半径500メートルほどのエリアで、ビルが次々と建て替わっている。

なぜこの街に、この建築が生まれたのか。

それは福岡という都市が、アジアに最も近い日本の玄関口として、自らのスケールを更新しようとしているからだと思う。空港から都心まで地下鉄で二駅。この圧倒的な近さが、天神を「通過する場所」ではなく「滞留する場所」に変えたいという意志を生んだ。

One Fukuoka Buildingの低層部は、その意志の表れだろう。


中に入る。

木製ルーバー天井と柱が連なる内部通路

驚いた。

外から想像していた印象と、まるで違う。

ダークスチールの柱がリズムをつくり、天井は木調の仕上げが波打つように広がっている。ガラスの手すり越しに見下ろす吹き抜け。光がやわらかい。

吹き抜けのアトリウム空間。木製ルーバー天井とガラス手摺が上下の階をゆるやかにつなぐ

オフィスビルの低層共用部に、これだけの奥行きを持たせている。

人はまだまばらだった。テナントが埋まりきっていないのか、あるいは平日の昼下がりだからか。けれどこの空間は、人が少ないときにこそ骨格が見える。鉄と木とガラス。素材の対比が静かに効いている。

エスカレーター脇の壁面を飾る大型アートワーク。動物や植物をモチーフにしたモノトーンの線画が、無機質な構造体の間に息づいている


外に出て、もう一度交差点から見上げた。

One Fukuoka Building 横の歩行者通路。天神ビッグバンの波紋は、建物の外壁だけでなく足元の舗装にまで及んでいる

花壇の色が、グレーのファサードの足元で妙に鮮やかだった。

記憶の中の天神とは違う。でも、この違和感はたぶん悪くない。街が脱皮しようとしているときの、あの少しだけ落ち着かない感じ。

数年後にまた来よう。

そのときにはきっと、このビルが「前からここにあった」顔をして建っている。

街というのは、そういうふうにできている。