今日、天神を歩いた。
福岡市が「天神ビッグバン」と名づけた都市再生プロジェクトが進むこの街で、ひときわ目を引く建物がある。天神ビジネスセンター。設計はOMA、レム・コールハースの事務所だ。
最初に内部へ入ったとき、視線が外へ引き出された。
ベイウィンドウのガラス越しに、天神の街が複数の層を通して見える。ガラスは透明でありながら、フレームを重ねるたびに街の像が変容する。外から見て「立体的なファサード」と感じたものが、内側からはこういう経験をつくっていた。
光が当たる面と陰になる面が交互に現れ、時間によって表情が変わる。そういう設計だ。
内部に入ると、外観とは別の世界が広がった。
吹き抜けの上から見下ろすと、木質パネルの壁面、ガラス手すり、赤いアート作品が層を成して見える。外のガラスの硬質な印象と、内側の木と光の柔らかさ。OMAは一つの建物の中で、二つの異なる経験をつくっている。
なぜこの形か。
天神ビッグバンは、2015年に福岡市が打ち出した規制緩和政策だ。容積率の上限を引き上げ、新しい建築基準に合わせて建て替えを促す。2024年末を期限として、約30棟の再開発が動いた。
記憶と違う街角でも感じたことだが、この街は変わっている。それも、急速に。
天神ビジネスセンターはその象徴的な第一号として竣工した。だからこそ、設計者の選択には重みがある。福岡市が「世界水準の建築」を求め、OMAが選ばれた——そういう経緯だ。
夕方に差し掛かると、低層部の間接照明が目に入った。
オレンジ色ではなく、白に近い光。それがガラスの内側から滲み出るように漏れている。他のビルにはない表情だ、と思った。ガラスが光を反射するだけでなく、内側から発光しているように見える瞬間がある。
北側から内部を覗くと、木のらせん階段が見えた。
外観の硬質なガラスと、内部の木の曲線。この対比は意外だった。OMAは外と内で異なる言語を使っている。外は都市に向けた「介入」、内は人間に向けた「招待」——そういう二重性があるように感じた。
エスカレーターで上へ向かうと、木質パネルが多層的に重なる空間が広がった。
ガラス手すり越しに見える吹き抜けは、外からは想像しにくい奥行きを持っている。ファサードが「皮膚」なら、この内部は「臓器」だ。表と裏で、建物はまったく別の顔を持つ。
コーナー部まで歩いた。
ここが一番印象的だった。角が「えぐれて」いる。建物の角に向かって、ファサードが内側に引き込まれている。
通常、オフィスビルの角は主張する。ランドマーク性を高めるために、コーナーを強調する設計が多い。ここは逆だ。角を消している。
なぜか。
天神は交差点の多い街だ。四方向から人が集まり、視線が交差する。角を「えぐる」ことで、建物が道路側に空間を返している。歩行者に対して、わずかに退く。都市への贈与——そういう読み方ができる。
記憶と違う街角の近くを歩いたとき、天神という街のスケール感を改めて思った。
福岡は東京でも大阪でもない。コンパクトで、歩ける街だ。再開発が進むほど、そのスケール感が問われる。高くなればいい、というわけではない。
OMAがこのファサードを選んだのは、おそらくその問いへの答えだ。立体的なガラス面は、街の速度と光を受け止め、反射し、再配分する。建物が情報処理装置のように振る舞う。
ガラス越しの間接照明を、もう一度見た。
この雰囲気は他のビルにはない。感心した、というより——問いが残った。
天神はこれからも変わり続ける。その変化の中で、この建物が何を問い続けるのか。それは、しばらく歩いてみないとわからない。




